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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和43年(う)1号 判決 1968年4月11日

被告人 田中豊彦

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人菅井俊明の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、原審の量刑は重過ぎるから不当であると言うのである。

所論にかんがみ、本件記録を調べ、証拠によつて認められる本件犯行の内容及び被告人の性格、経歴、特に本件は短期間内に二回に亘る無免許運転をしたもので、被告人は、これより先に、無免許運転により罰金刑を受けた前科五犯を有しているのに、反省自戒の念に乏しく、更に本件各犯行を累行し、その他にも窃盗、詐欺、傷害等の前科一〇犯を有することからみると、法規範無視の態度は、既に、その性格中に定着しているとさえ思われる程であり、その矯正のためには、原判決が被告人に対し懲役二月に処した量刑上の措置は相当であり、論旨は採用出来ない。

よつて、本件控訴はその理由がないので、刑訴法三九六条により、これを棄却することとする。

尚、検察官は、原判示対応証拠中には、被告人の無免許の点について、自白の他に、これを補強すべき証拠がないので、昭和四二年一二月二一日最高裁第一小法廷の判例に従い、原判決を破棄の上、更に判決をなすべきであるというが、原判示の各司法警察員の各道路交通法違反現認報告書によれば、同警察員等は、それぞれ、被告人の本件各運転行為を現認している外に、被告人の右各運転が無免許であることを現認した旨の記載があるので、右記載が証拠法則上の自白の補強証拠となり得るか否かの点についてその成立過程の面から検討を加えてみると、右現認報告書中には、右無免許の現認方法については明らかにされていないが、その方法は、経験則上、通常は自動車を運転中の運転者に対し取締警察官が、運転免許証の提示を求め、運転者より、正当な免許証の提示がないので、その運転が免許証不携帯か、無免許によるものと推察され、自白事件の場合は運転者から、それが無免許に基づく旨の申述を得て、無免許運転であると現認する経過を辿ると推測され、場合によつては、それ以上の詳しい反面捜査を経て、その無免許を現認している場合もあり得るというべきである。そうであるとすれば、同取締官作成の現認報告書中の無免許を現認した旨の記載は、単なる運転者の自白を移記したものではなく、自動車を運転中正当な免許証を所持していなかつた事実等を併せ考えた上での判断に基づき、なされたものであるから、かかる経過による現認は、犯人の自白を補強し得る性質が具つていると思料されるところ、本件各現認報告書は特段の反証が無いので右の如き通常の経過により、被告人の無免許が客観的事実と相俟つて現認されたことを記載したものと推認されるから、被告人の本件各無免許運転の自白の補強証拠となり得るものというべきである。従つて、原判決の採証方法は、前記判例の趣旨に抵触するものではない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 斎藤寿 河合長志)

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